「由梨ちゃん、さっきはごめんね。

由梨ちゃんが夏樹のことを考えてるのがつらくて、ついあんなふうに…」


朝日さんの言葉に、私は首を横に振った。


悪いのは私なのに、朝日さんはやっぱり優し過ぎる…。


「じゃあ…、そろそろ行くよ」


夏樹さんが私のカバンを受け取り、扉を開けた。


「由梨ちゃん」


部屋を出ようとした途端、朝日さんに呼び止められた。


「夏樹がイヤになったら、いつでも僕のところに戻っておいで」


朝日さんが王子様スマイルで笑う。


「……っ!誰が行かせるかっ!」


夏樹さんが顔をしかめる。


でも直後、すぐ笑顔になった。


「夏樹、またな」


朝日さんが右手を軽く上げる。


「あぁ、またな」


夏樹さんの言葉の後に、私は朝日さんに頭を下げた。


朝日さんは笑顔で見送ってくれる。


きっとつらいはずなのに、決してその笑顔を崩さない。


すごい人、だと思った。


朝日さんに出会えたこと。


朝日さんを好きになったこと。


本当に良かったって心から思える…。




私と夏樹さんは、朝日さんのマンションを後にした。