本当に欲しい人。


それはありささんなんだね。


だけど、そのありささんは朝日さんの恋人で、しかももうすぐ結婚しようとしている。


いつも冷たい社長だけど、社長だって叶わぬ恋で苦しんでいたんだ。


こんな社長、知らなかった……。


「一番欲しいものが手に入らないって、つらいよな」


「そう、ですね」


私は本気で恋をしたことなんてないから、よくわからないけれど。


「俺、ちょっとしゃべり過ぎてるな。飲み過ぎたかな」


フッと柔らかく表情を緩める社長。


こんな優しい顔の社長を見るのは、初めてかもしれない。


「なぁ、朝日と偶然知り合ったんだろ?
アイツのこと、どう思った?」


どうって言われても……。


「そうですね。綺麗なお顔立ちですし、優しい感じですし。
まるで王子様みたいな人だなって思いました」


私の言葉を聞いた途端、社長は子供のように頬を膨らませた。


「女はみんな、ああいうタイプが好きなんだろう?」


「えっ?」


「いつだってそうだよ。俺とアイツが横に並んでりゃー、いつもアイツの周りに女が寄って行ってたよ」


「えっ、そうなんですか?」


「俺は大抵怖いとか言われて、あんまり近寄ってもらえなかった」


うーん。


確かに社長っていつも怒ってるみたいで怖いけど。


「アイツの横にいると、俺は影が薄くなるんだ。

だから、あんまり横にいたくない……」


なんだろ?社長にしては弱気なこの発言。


朝日さんとは色々あったのかもしれないな。