秋山さんにお礼の挨拶をして、私はマンションを後にした。


巨大なマンションから少し離れた歩道で、私は朝日さんの車を待った。


ふと視線を一番近くの交差点に向けると、信号待ちをしている朝日さんの車が見えた。


信号が青になると、その車は動き始め、あっと言う間に私の目の前に停まった。


車から降りて来る朝日さん。


「由梨ちゃん、お待たせ」


「いえ、全然待ってないです」


「荷物、それだけ？」


「はい。とりあえず必要最低限なものだけ。

残りは後日、業者にお願いします」


「そっか。じゃあ、乗って」


朝日さんは私の手からさりげなく荷物を取ると素早く後部座席に乗せ、サッと助手席のドアを開けてくれた。


そういうところ、朝日さんってスマートで感心してしまう。


二人で車に乗り込むと、朝日さんは車を発進させた。


街の中を可愛い車が軽快に走っていく。

　
ふと、後ろを振り返る。


社長のマンションがどんどん遠ざかっていく。


“夏樹さん…”


ぽつり、心の中で呟いてみる。


その姿はどんどん小さくなり。



とうとう視界の中から消えてしまった。