外の景色をボーッと眺めていたら、カバンの中から着信音が聞こえた。


きっと朝日さんだ。


「はい」


『由梨ちゃん、もうすぐ着くからマンションの前で待ってて』


「わかりました」


私は電話を切り、大きなバッグを手にして玄関の扉を開けた。


外へ出て、ガチャンと鍵をかける。


この鍵どうしよう?


明日、お店で社長に返そうか。


そうしよう。


ひんやりとした扉にそっと手を触れる。


社長…。


ありがとうございました…。


この部屋も…。


ありがとう。


さようなら……。


心の中でそう言って、私は部屋を後にした。


ロビーに下りると、いつものように秋山さんと目があった。


「水沢様、こんにちは。

その大きな荷物は、もしかしてご旅行ですか?」


秋山さんが優しい笑顔で問いかける。


「いえ、あの。

私、今日でこのマンションを出る事になったんです」


「えっ、そうなんですか?」


パッと目を見開く秋山さん。


「あの、色々とお世話になりました。

秋山さんの笑顔を見るのが好きでした。

あなたの笑顔を見ていると、仕事の疲れも飛んでいくようでした…」


「水沢様…、寂しくなります…」


せつなそうに眉を曲げる秋山さん。


私も…。


 

私も寂しいです。