社長はさほど力を込めず、優しく抱きしめてくれる。


「お前、誤解するなよ?

これは別に変な意味じゃないんだ。

お前がいなくなるのは、父親が娘を嫁に出すような、そんな感じだから」


社長が珍しく少し早口で言った。


「娘じゃなくて、ペットを手放す気持ちに近いんじゃ?」


私がそう言うと、社長がそうかもなと笑って頷いた。


「社長…」


「ん?」


「今まで本当にお世話になりました。

色々、ありがとうございました」


私は素直な気持ちを伝えた。


顔が見えないからこそ、ちゃんと伝えられた。


私の頭上に、社長のため息がかかる。


「おいおい、やめてくれよ。

マジで娘を嫁に出す父親の心境になるじゃねぇか」


そうかもしれないけど、どうしても言いたかった。


「こっちこそ、ありがとな。

ありさの事、後押ししてくれて。

雷の夜も世話になった。

歌も嬉しかったし。

メシも、すげぇうまかったよ…」


社長…。


社長にそんなこと言われたら、泣きたくなっちゃうよ…。