ドクンと心臓が鳴って、その振動で私の視界もぐらりと揺れた。


私はもうわかっていた。


社長が人一倍寂しがり屋だということを。


そして、それを隠すために虚勢を張って生きているということを。


「お前、なんて顔してんだよ…」


「え…?」


「泣きそうな顔してる。そんなに嫌だった?」


寂しそうな社長の表情に、私は首を横に振った。


「違うんです…。

私、心配なんです。夏樹さんの事が…」


そう言うと、社長の顔が急に険しくなった。


「心配って何だよ?20歳のお前に心配されるような事は、何もないけどな」


ふてくされたように言い放つ社長。


またそうやって強がる。


そういうところが心配なのに…。


「…ごめんなさい。生意気言いました…」


言い争いたくはない。


だって、これが最後だから…。


しばらくうつむいていたら、社長の大きなため息が聞こえた。


「ごめん…。

俺って駄目な男だよな。

これくらいですぐカッとなって…。

お前は、俺のこういうところが心配なんだろう?」


社長の言葉に、私は大きく大きく頷いた。


「お前、そこまで強く肯定しなくても…」


社長が苦笑いするから、私はクスクスと笑った。


「最後だもんな。お前の笑顔だけ見たい」


そう言って社長が優しく笑う。


私も、社長の笑った顔だけ見ていたい。


「…と言うわけで、だ」


「はい?」


「抱きしめていい?」


社長の甘い声と視線に、一気に顔が熱くなった。


電気を消していて良かったと、今さらながらに思う。


「あの…えと…、はい」


私はぎこちなくコクンと頷いた。


その直後、社長が私をそっと抱き寄せた。