「水沢、幸せになれよ」


私の頭上に社長の優しい声が響く。


頭に触れるその手はあたたかい。

  
「自信を持って行けばいい。

お前は充分いい女だったよ。

俺が変える必要なんて全然ないくらい」


社長の紡ぐ言葉は、ただただ優しくて…。


私の視界はどんどん涙で滲んでいく。


これが何の涙なのか、私にはわからなかった。


社長の優しさに沢山触れたからだろうか?


それとも、社長の家から出て行く事がさみしいのだろうか?


「社長…」


小さな声で呼ぶと、社長がクスッと笑った。


「最後くらい、ちゃんと名前で呼べよ」


あ、そうか…。


ここを出たらもう二度と、夏樹さんって呼ぶことは出来ないんだ。


私は小さく深呼吸をした。


「な、夏樹さん……」


「ん、いい子だ。それでいい」


そう言って、社長は私の髪を撫でる。


「夏樹さん、またリリーちゃんと同じ扱いしてますよ」


ボソッと呟けば、社長はホントだなと喉を鳴らして笑った。