「水沢…」


私の後ろから、低くて優しい声がした。


「これでも飲むか?」


お風呂から出た社長が持っているのは、缶に入ったカクテル。


「はい、いただきます」


私は両手でそれを受け取った。


「立ちっぱなしはしんどいだろ?窓にソファ向けようか」


社長は私の返事も待たずに、大きなソファをあっという間に窓に向けた。


「これでどう?」


「バッチリですね」


私達はにっこり笑って、二人がけのソファに腰掛けた。


「じゃ、飲もう」


社長が缶のフタを開けたので、私もあわててフタを開けた。


「乾杯」


そう言って、缶をカチンと合わせた。


こうやって私と社長がお酒を飲むのは三回目かな?


過去の二回は、いずれも酔って寝ちゃったっけ。


それも今となっては、楽しい思い出だ。


「なぁ、水沢…」


「はい」


「俺、お前にひとつ謝らないといけないことがある…」


「……なんですか?」


なんだろう?


謝ることって。


「朝日が初めて店に来た日を覚えてるか?」


初めて来た日?


「はい、覚えてますよ。

朝日さんはスーツを着ていて、ありささんは綺麗なワンピースを着てました。

お二人でディナーを楽しまれたんですよね」


「…うん。

あの時さ、朝日が“由梨ちゃんに会いに来た”って言っただろ?」


「あーはい。そうですね」


「あの時俺さ、由梨ちゃんって誰?って聞いたの、覚えてない?」


そう言えば、そうだった気がする。


「あれな…。



嘘だったんだ」