「飲みたい気分なんだ。

お前は唯一事情がわかってるヤツだし。

いいだろう?」


イヤですって言っても、どうせ無理矢理付き合わせるつもりなんでしょ?


下手に逆らわない方が身のためか。


「わかりました」


「じゃあ、こっちに座ろう」


そう言うと社長は、入口から一番遠いソファへと向かった。


私は机を挟んで、反対側のソファに腰を下ろした。


「あ、電気消してくれ」


「え?」


「間接照明だけでいい。

飲むと目がチカチカするんだ」


「はあ…」


私は部屋の蛍光灯を消し、スタンドライトのスイッチを入れた。


すると部屋が薄暗くなり、私達の周りだけがほんのり明るく照らされた。


コルク抜きで器用にフタを開け、細長い綺麗な手でゆっくりグラスにワインを注ぐ社長。


その手つきは、とても優雅で美しい。


「持って」と、グラスを渡される。


「乾杯」


グラスを軽く持ち上げ、静かにワインを飲む社長。


それを見ていた私も、ワインを少し口にした。


研修で一度だけ飲んだけど、初心者でもわりと飲みやすいワインだ。


社長がソファのへりに肘をかけて、頬杖をついている。


ライトの灯りで顔が優しく照らされ、それによって出来た長いまつ毛の影がとても綺麗だなと思った。