あと少しなんだから、ちゃんと礼を言おう。


俺のために、一生懸命歌ってくれたんだから。


「水沢」


「はい」


素直にすぐ返事をする、コイツの従順さがやっぱりリリーのようで可愛い。


「ありがとな。俺のために歌ってくれて。嬉しかったよ」


目を開けて、ちゃんと水沢の目をみて、俺は素直に言った。


水沢はにっこりと柔らかく微笑んだ。


「夏樹さん」


俺の足元に座っている水沢が、俺の名を呼ぶ。


「ん?」


「私、夏樹さんが好きです」


「え…?」


心臓がドクンと嫌味なくらい音を立てた。


な、んだ?それ…。


心臓がありえないくらいドキドキする。


どうしたんだ?


落ち着け、俺。


「社長の事、誤解していたんです…。

ずっと怖くて冷たい人だと。

だけど、本当は違ってた。

強がるところも、本当はさみしがり屋なところも、一途なところも、優しさをハッキリ見せないところも全部…。

私は人としての夏樹さんが好きです。

そんな社長の下でこれからも働けることが嬉しいんです…」


人として…。


なんだ。


そうか。


当たり前だよな。朝日がいるのによ。


しかし、嬉しいこと言ってくれるな。


なんかちょっとジーンとしたじゃないか。


「今頃、俺の良さに気付いたのかよ」


また素直じゃない俺。


水沢はクスクスと笑った。