「社長、私が歌を歌ってあげましょうか」


「え?」


私の言葉が意外なのか、社長が目をパチクリさせる。


「好きな曲があるんです。

英語の曲なんですけど、それ聴いてたら私はすごく落ち着くんで、もしかしたら社長も眠れるかもしれませんよ」


「ふぅん…。試しに歌ってみてよ」


そう言って社長が口角を上げる。


私は一度深呼吸して、その歌を歌い始めた。


その歌声は、夜の闇に深く静かに響いていく。


社長は目を閉じて、聴いてくれているようだ。


私は社長の顔を見ながら、語りかけるように優しく歌った。


社長にさみしい夜が来ないように。


雷に怯える日がないように。


そんな願いを込めながら、社長を包み込むような気持ちで歌った。




歌い終えてチラリ社長を見ると、社長は目を閉じたままだった。


社長、眠ったのかな?


それなら良かった。


私は静かに身体を移動させ、布団から出ることにした。


その時。


「おい」


社長が急に低い声を出した。


「まだ寝てないぞ」


あらま。


だよね。


私の歌声じゃさすがに眠れないか。


そんなに上手いわけでもないから…。