カチャッと小さく音を立てて、社長の部屋の扉が開かれる。


何の躊躇もなく入って行く社長の後ろに、私も付いて行った。


「そこに座ってろ」


社長が言う“そこ”というのは、ベッドの上。


私はこの前この上であった出来事が頭をよぎって頬が赤くなるのを感じつつ、ベッドの端にそっと腰掛けた。


社長はデスクの上にあるノートパソコンを持つと、ベッドに上がって来た。


壁にもたれ、隣に来るよう手招きをする社長。


その優しい顔に戸惑いつつ、私は社長の横に壁にもたれて座った。


社長は自分の膝の上にノートパソコンを置くと、電源を入れた。


静かな部屋に、パソコンが立ち上がる音が響き渡る。


パソコンが立ち上がるまでの間、社長は無言で私の足にそっと布団をかけてくれた。


私はもう知っている。


社長は、その言葉や態度では推し量る事が出来ないくらい優しいということを。


「これだよ」


そう言って社長が、フォルダの中身を私に見せた。


「昔のデジカメの画像だから、ちょっと画質が今のより劣るけどな」


フォルダの中にはイタリア人なのか留学生なのか、沢山の人達と共に楽しそうに笑う社長の姿があった。


「夏樹さん、若ーい」


髪も少し短めで、今より少し爽やかな気がする。


「21歳の頃だから、ちょうど今のお前くらいだな」


そう言って社長がクスリと笑う。


「ここからが旅の写真。

大学はミラノにあったんだけど、休みの日には友達と色んな所に出かけたんだ」


「街並みが綺麗ですね」


「なんてことない普通の通りなのに、イイ雰囲気だろ?」


そう言って社長は、写真を一枚一枚めくってくれる。