「水沢…」


目線を下げたまま、私の方は見ないで社長は言った。


「お前、仕事辞めるなよ」


「え…?」


「ずっと…。ずっと俺の店にいろ」


視線を動かさない社長。


突然どうしたんだろう…。


「絶対に悪いようにはしない。

だから、ずっと俺の下で働いてくれ。

他の店や他の仕事には就かずに、ずっと俺の店にいてほしい」


「夏樹さん…」


戸惑って社長を見つめていたら、社長が急に私を見て決まりの悪い顔をした。


「ごめん。こんな言い方したら重いよな」


フッと鼻から息を吐き、苦笑いをする社長。


「いや、なんていうか。お前よく仕事するからさ。

助かるし…。頼りにしてる」


私は、谷口先輩とマネージャーが話していた事を思い出していた。


ちゃんと見ていてくれる上司がいるなら、私はこの先もずっと頑張れると思う。


「私、頑張ります。ずっと夏樹さんのお店にいます」


そう言ってにっこり笑うと、社長も微笑んでくれた。


「なぁ、水沢。お前眠れないんだったら、俺の部屋に来ないか?

イタリア留学時代の写真見せてやるよ」


「えっ、いいんですか?」


「うん。…っていうかあんまり興味ないかな?」


「いえ、見たいです。ぜひ見せてください」


「じゃ、決まりな」


私達はマグカップを持ったまま、社長の寝室へと向かった。