ひど過ぎる…。


いきなり残業だなんて。


今夜は観たいテレビ番組があったのに。


店内の片付けが終わって、次々に帰っていくスタッフを見ながらため息が漏れた。


「あれ? 由梨、帰らないの?」


すでに着替えを終えた沙希が、ロッカー室から出て来て言った。


「うん、残業頼まれて」


「ついてないねー。じゃあまた明日ね。お疲れ」


「お疲れ」


沙希は私に手を振って、従業員専用のドアを開けて出て行った。


「はぁ…」


残業って一体何をするのだろう。


みんながいなくなった店内と厨房の明かりを消して、トボトボと社長室へと向かう。


コンコンとノックをし、扉を開けた。


「失礼します」


中に入ると、机に足を放り投げて目を閉じる社長の姿が目に飛び込んで来た。


なに?この格好。


オーナーが見たらなんておっしゃるか。


「おう来たか」


仰け反ったまま、ゆっくり瞼を上げる社長。


「あ、あのう。残業って何ですか?」


恐る恐る尋ねてみれば、社長は長い脚をゆっくりと床に下ろした。


「残業とは、これだ」