「水沢をお前のところへは行かせない」


社長の言葉に、ドクンと心臓が大きく鳴る。


「夏樹の言ってる意味がわからない」


私の手を握る朝日さんの手に力が入って、少し痛い。


「ずっとってわけじゃない。今はダメだと言ってるんだ」


どういう意味…?


「朝日。お前、ありさに海外への転勤話が来てるのを知ってるのか?」


「え…?」


社長の言葉に、朝日さんが目を見開く。


「アイツ、ロスに転勤するかもしれないんだ。

行ったら3年は戻れないらしい」


ありささんが海外に…?


「でもまだ迷ってるんだ。

お前の事が好きだから。

行きたい気持ちもあるけど、お前と離れるのがイヤで迷ってるんだ。

お前さ、いい加減その八方美人やめろよ」


社長が鋭く言い放つ。


「なんだよ、それ」


朝日さんも鋭い目になった。


「お前は誰にでも優しいし、誰にでもいい顔をする。

それがどれだけ周りを混乱させるか、全然わかってないんだ。

そういうのをな、偽善って言うんだよ!」


朝日さんの手が私から自然に離れていく。


呆然とする朝日さん。


「偽善…?」


「あぁ。

そろそろお前、本当にハッキリとした態度をとれよ。

いずれにせよこのまま行けば、ありさか水沢のどっちかが傷つくんだ。

どっちも傷つけずに済むなんて思うな。

その覚悟がないうちはな、水沢をお前のところへなんか絶対やらないからな!」


社長…。