「夏樹。お前、由梨ちゃんに手を出したりしてないだろうな?」


「朝日さん…?」


朝日さんの言葉に、社長がフッと鼻から息を出した。


「出すわけがない。

俺は、従業員には手を出さないって言っただろ?余計な詮索するなよ」


社長にそう言われて、朝日さんの顔がゆがんでいく。


朝日さんは、ふぅと長い息を吐いた。


「お前、もしかして僕に復讐しようとしてるのか?」


「なんだよ、復讐って」


社長の目が鋭くなる。


「お前が好きなありさと僕が付き合ったから、今度は僕の好きな由梨ちゃんを、お前が手に入れようとしてるのか?」


え…?


朝日さんの言葉に、社長の表情が曇る。


うそ。


そうなの…?


社長は、朝日さんに仕返しがしたかっただけなの?


だから朝日さんと会うなとか、引越ししろとか言ったの?


うそ…だよね?


「なんだよ。否定しないのか?」


朝日さんが社長に詰め寄る。


社長、なんとか言って。


どうして何も言ってくれないの?


黙り込む社長。


言っては、くれないんだね…。


「由梨ちゃん」


朝日さんの声が遠くに聞こえる。


目の前がクラクラする。


「由梨ちゃん、僕と暮らそう」


「え…?」


「僕の部屋においで。

夏樹と一緒にいちゃダメだ。

もう僕の中では、ありさとはとっくに終わってるんだ。

二股なんかじゃないから。

だから、僕のところにおいで…」


「朝日さん…」


社長、どうして黙ってるの?


私はただの復讐の道具なの?


「由梨ちゃん、行こう」


私の手を引く朝日さん。


その時だった。


「待てよ」


社長の低い声が響いた。