「水沢。この段ボール運んどけ」


炭酸入りのナチュラルミネラルウォーターがある。


イタリアでは、これが好んでよく飲まれている。


私の働くこのイタリアンレストラン。


イタリア人のお客様も多く、この炭酸水を切らすことはまずあり得ない。


それはいいのだけど。


何十キロもあるこの段ボールを、女の私一人に運ばせるこの男。


「おい、何突っ立ってるんだ。早くしろ」


「はい、すぐに運びます」


このイタリアンレストランの社長、久遠夏樹(くおん なつき)。


私の上司だ。


短大在学中、私はこのレストランでホールのアルバイトをしていた。


私の働きっぷりを気に入ってくれたマネージャーが、短大卒業後もここで働かないかと誘ってくれて、私は就職活動もしないでこのレストランに就職した。


もともと体力には自信があったし、ホールの仕事は得意だった。