「申し遅れました。私、久遠夏樹と申します。

ラルナエッドイルソーレというイタリアンレストランの代表取締役社長を務めております」


社長はやけに紳士的な態度でかっこよく挨拶をした。


「は、はぁ…」


深田君が戸惑いながらも、まじまじと社長を見ている。


「すみませんが、連絡先の交換はご遠慮願えませんか?」


「はぁ?」


突然の社長の言葉に、私も深田君もビックリして目を見開いた。


「僕の彼女に手を出されては困ります」


か、彼女?


社長ってば何を。


「ちょっ、やめてください。手を出すだなんて、深田君に失礼です」


私は社長の腕を引っ張った。


でも社長は私の事なんて無視して、さらに続ける。


「僕はかなり嫉妬深いんです。あなたは彼女がずっと片思いしていた人でしょう?

そんな人と連絡先なんか交換されては、気になってしかたがない」


「……」


何を言ってるんだ?この人は。


「キミは、僕の彼女を振ったそうですね」


そう言って社長は、鋭い瞳でジリジリと深田君に詰め寄った。


「振ってくれて良かった」


社長の言葉に、きょとんとする深田君。


「キミが振ってくれたから、僕は今こうして彼女と付き合えてるんだから、感謝しますよ」


なんだかワケがわからなくて、目がぱちぱちしてしまう。


「あーそうそう。僕の友人でCM音楽を手掛けている椎名朝日というヤツがいるんです。

身長182cmのものすごいイケメンなんですが、その彼も彼女に夢中で。

さんざんバトルをして、やっと僕が彼女を落としたんですよ」


社長の話に、深田君の顔がどんどん歪んでいく。


「キミは彼女の良さを見抜けなかったんだ。

それなのに今さらヤろうなんてな、


虫がよすぎるんだよ!」