「朝日?」


低い声に振り返ると、空になったワインボトルを持った社長が立っていた。


「夏樹、久しぶりだな」


「夏樹君、元気だった?」


無表情な社長とは反対に、この二人はニコニコ顔だ。


「どうした?急に」


社長の態度と口ぶりからして、あまり歓迎しているように見えないのは気のせいだろうか。


「由梨ちゃんに会いに来たんだ」


「由梨ちゃんって?」


社長がきょとんと首を傾げる。


「えっ、自分の部下の名前も知らないの?彼女だよ」


呆れた様子の朝日さん。


「あー? 水沢のこと?

へぇ、水沢って由梨っていう名前なんだ。

初めて知った。

お前ら知り合いなのか?」


まったく、社長ってことごとく失礼だよね。


「彼女は命の恩人だよ」


「恩人?」


ジリと怪訝そうに私を見る社長。


な、何か文句でも?


「まぁ座ってくれよ。

水沢、案内しろ」


「あ、はい。こちらへどうぞ」


二人を窓際の席へと案内するとすぐに、沙希が水とメニューを持って来た。


振り向き様に、私の耳に顔を近づける沙希。


「社長の知り合い?」


「うん、大学の同級生だって」


私は社長や朝日さんには聞こえないように、小声で返した。


「へぇー、美男美女ねぇ」


ホントそうだね。


絵に書いたような、素敵なカップルだ。