それからの数日、私と社長はすれ違いの生活になった。


社長はとても忙しい人だから、朝早くから夜遅くまで仕事をしていて、家で会える事はほとんどなかった。


お店で会う時はいつものように厳しい社長だけど、あれ以来重い物を運ぶ仕事は任されなくなった。


重たい物を運ばせて面白がっていた社長って、やっぱりちょっと変わっているなと思う。


「お疲れ」


従業員の出入り口で沙希に声をかける。


「由梨、お疲れ。いいわねぇ早番」


「明日は定休日なんだから頑張って。じゃあね」


沙希に手を振って、私はお店を後にした。


前に住んでいたアパートよりも職場が遠くなってしまった私は、自転車でお店に通うようになった。


ヘルメットを被り自転車に乗ると、残暑厳しい街中を軽快に走らせた。




その日の夜の事だった。


私に一本の電話が入った。


半分眠っていたので、寝ぼけながら通話ボタンを押すと。


『由梨ちゃん』


ん?この声って…。


「朝日さん?」


ハッとした私はガバッと布団から跳ね起きた。


『元気だった?』


久しぶりの朝日さんの優しく澄んだ声に、胸がキュンとしてしまう。


「はい、元気です」


もっと色々話したいのに、ドキドキして言葉が出て来ない。


『ねぇ、由梨ちゃん。ちょっと聞きたい事があるんだけど…』


「え?なんでしょうか」


なんだろう?聞きたいことって。