「お前ら、いつの間にそんなに接近しちゃったわけ?
朝日も朝日だよなー。
ありさがいるくせに、お前に手料理なんかふるまいやがって」


社長の言葉に、何も答えられない私。


さっき言った言葉を、この口の中に戻せたらいいのに。


「あいつ、マジなんだな…」


「え…」


「ホントにお前が好きなんだな」


社長の言葉に、なんだか胸がキュンとする。


朝日さん…。


どうしてるかな。


もう随分会えてないけど。


社長はそれ以上何も言わず、黙々とざるそばと天ぷらを食べている。


せっかく和んでいたのに、自らその雰囲気をぶち壊してしまった事が悲しい。


「あの、社長。テレビ台の横に飾ってある犬の写真、可愛いですね」


沈黙を破りたくて、必死で話す材料を探した。


「あぁ、あれか。昔、飼ってた犬だ」


「ウェルシュコーギーですよね?賢そう」


「コイツは賢いぞー。俺だけに従順で」


「へぇ、珍しいですね。普通はその家の主人になつくものなのに」


「親父は仕事が忙しくて、ほとんど家にいなかったからな。
俺が主人だと思ってたんじゃねぇの?」


久遠オーナーか。


今もグループを取り仕切っておられてお忙しそうだけど。


昔からそうだったんだね。


「そのワンちゃん、今は?」


「死んだんだ。俺が高校3年生の時に。

8歳から飼ってたから、10年は生きたんだけどな」


飼ってた犬が死ぬって悲しいよね。


私も飼ってたインコが死んだ時は泣いたなあ。


「もう二度と、犬は飼いたくないな…」


ボソッと呟く社長。


その瞳は、なんだか寂しそうだ。