30分ほどして料理が完成したので、私はざるそばの入ったお皿を持ってリビングへと向かった。


社長の家のリビングには、ダイニングテーブルというものがない。


あるとしたら、ソファの前に置いてあるガラス天板のローテーブルだけだ。


「あの、ここに運んでいいですか?」


そう問いかければ、「あぁ、もちろん」と答える社長。


私はお箸やお茶、めんつゆを入れるお皿、一緒に作ったおかずを運び込んだ。


「おっ、すげぇっ。天ぷらじゃん」


「はい。夏野菜を揚げてみました」


「この短時間でよくこんなに揚げたなあ」


社長が感心してくれてるから、なんだか口元がゆるんでしまう。


「なぁ、もう食べていい?」


待ちきれない様子の社長。


「もちろんです。どうぞ」


そう言うと社長は、ざるそばをおいしそうに食べ始めた。


「お前、気が利くなー。わざびにネギにもみ海苔まで。まじうまい」


私もざるそばを口にした。


やっぱり夏は、こういうのがさっぱりしていいよね。


「天ぷらもうまい。茄子もカボチャも甘いなー」


大きな口で頬張る姿は、まるで子供みたいだ。


「お前、料理うまいんだな」


「私はたいしたことないです。朝日さんの方がよっぽど…」


はっ。


しまった。


私ってば余計な事を…。


「お前、朝日の手料理食った事あんの?」


うっ。


急に社長の目が鋭くなった。


怖い…。


いつもの社長だ…。