エレベーターで一階まで降りてロビーに到着すると、カウンターの向こうで秋山さんが私の顔を見てにっこり笑った。


「お出かけですか?」


「あ、はい。ちょっと買い物に…」


さわやかに声をかけられて、なんだか照れくさい。


「お気をつけて」


笑顔の秋山さんに手を振って、私はマンションを後にした。


外はまだまだ明るくて、道路から吹く熱い風を感じながら、私はくっと伸びをした。


やっぱり地上って落ち着くかも。


社長にもらったメモを頼りにスーパーに到着すると、私は必要なものをカゴいっぱいに買い込んだ。


結構大きなスーパーで品揃えも多いし、野菜の品質も良いようだ。


買い物を済ませマンションに戻ると、またまた秋山さんとバッチリ目が合ってしまった。


「おかえりなさいませ。おや、随分買い込まれたのですね」


買い物袋を両手に3つも抱えて立つ私の姿は、ちょっと滑稽に見えているかもしれない。


社長の家には調味料が全然ないから、色々と買い揃えていたら、結構な量になってしまった。


「久遠様がそういった買い物をなさる姿を見た事がないので、なんだか新鮮です」


黒髪を揺らして、秋山さんが微笑む。


「そうなんですよー。冷蔵庫には飲み物しかないし、調味料すらないんですよー。ビックリしちゃいました」


多分冷蔵庫にある飲み物も、お店で買ったりせずに取り寄せてるんだろうな。


そんな気がする。


「水沢様は久遠様のご親戚なんですよね?」


秋山さんの言葉に思わず目を見開いた。


し、親戚?


なんでそんなことになってんだ?


あー、でもまぁ確かに。


同じ会社の人間と暮らすなんて、言えないか。


「え、えぇ、そうなんです。遠い親戚ですけど…」


うぅ~。ウソついてるよ私…。


それにしても秋山さんって、常にニコニコ顔だな。


私は笑顔が苦手だから、いつも先輩に叱られるんだ。


この笑顔は見習うべきかもしれない。


「そ、それでは失礼します~」


なんだか落ち着かないので、私はエレベーターホールへと向かった。