そんな素敵な出来事も、日々の暮らしが始まれば記憶の彼方へと消えてしまう。


私はただ淡々と、仕事をこなす毎日へと引き戻されていた。


「失礼しまーす」


今日は社長室の掃除当番の日。


「掃除していいですか?」


掃除機を持って問いかければ、社長はいつもと同様パソコンの画面を見たまま「あぁ」と素っ気なく返事をした。


ウィーンウィーンと、掃除機の音だけが響く社長室。


ソファーの下、テーブル下も、黙々と掃除機をかける。


次第に社長のそばに近づいていく。


「すみません。足元もいいですか?」


「あ?あぁ、頼む」


社長が足を上げた隙に、掃除機のヘッドを潜り込ませる。


その時、掃除機に何かが引っかかった。


「ん?」


スイッチを切り、それを拾い上げた。


これって写真?


わ…、何これ?すごく可愛い。


そこには髪が長くて色白の、それはそれは可愛らしい女性が写っていた。


一体誰なんだろう?


「社長、これ落ちてました」


そう言って写真を差し出すと、社長は顔を強張らせて私の手から写真をスッと引き抜いた。


「もう掃除はいい。自分の持ち場に戻れ」


冷たい口調の社長に怯んだ私は、後ろ向きにその場から離れて掃除機を持って社長室を出た。


パタリとドアを閉めると、そのままドアにもたれかかった。


どうしたんだろう、社長。


ちょっと焦った顔をしていた。


見ちゃいけないものを見ちゃったかな。