これから毎日こうやって社長にいじられるのかと思うと、なんだか憂鬱になってきた。


「さぁて、腹も減ったし。どうする?メシ食いに行く?」


壁時計に目をやると、時計の針は6時30分を指していた。


いつの間にかこんな時間になってたんだ。


「何食いたい?」


社長に聞かれ、うーんと眉間にシワを寄せる。


あ、そうだ。


「社長。引越しと言えば、そばじゃないですか?」


私の言葉に、社長が明らかに顔をしかめている。


「…おい。まさかお前、近所にそばを配ろうとしてんのか?」


この子痛いわー、そう言いたげな社長。


「あ、いや。さすがに配りはしませんけど、ざるそば食べたくないですか?
さっぱりしてますし」


私がそう言うと、社長が軽く頷いた。


「近くにソバ屋なんてあったかな。車で行くか?」


いやいや、わざわざそんなのお店に行かなくても。


「社長、この辺りにスーパーってありますか?」


「ん?あぁ、300mほど行った先にあるけどな」


「私、買ってきます」


「へ?」


目をぱちくりさせる社長。


「私が材料買って来ますから。社長はゆっくりしててください」


なんだか戸惑ってる社長だったけど、そんなものは無視して、私はスーパーの行き方を教えてもらった。


「ほらよ」


そう言って社長が投げたものが、キラリと光って私の手の平の中に落ちた。


あ、これ…。


「お前のカギだ。
これで1階の自動ドアも駐輪場も、ここの部屋も開くから。
失くすなよ?」


優しい笑顔で言われ、思わず目を逸らしてしまった。


「はい…。気をつけます…」


私はカギをそっと握りしめた。


「じゃ、じゃあ行って来ますね」


そう言って、私はスーパーへと出かけた。