「あぁ、あれな」


グーに握った手を口元に当てて、クスリと笑う社長。


「わざとだ」


「はぁ?」


な、なななんてことっ。


「ちょっ、それどういう意味ですかっ?わざとって何なんですかっ」


社長の言葉に、頭から火が出そうだ。


「いや、最初はさ。ほんの冗談だったんだよ。

あんな重い物を女がひとりで運べるわけないし、無理ですって言うのわかってて頼んだんだ。

そしたらお前があっさり運ぶから、それ見てたら面白くて」


そう言って、ケラケラ笑う社長。


「いつギブアップするかと思ってたんだけど、いつまでもしないし。

面白いから続けてた」


くっ、くっそー。


そういうことだったんだ!


許せなーーーい。


「なぁ」


「なんですか?」


怒りのせいか、お腹辺りが熱くなっちゃってる。


「炭酸水、重かった?」


私の顔を覗き込む社長。


「え…?あ、はい。それはまぁ…」


結構慣れて来たし、運べなくもないけど、確かにあれは重かった。


「悪かったな。

もうあんな指示はしないから。

だからお前、これからは力仕事なんかするな」


「え…?」


心臓が優しくトクンと音を立てるのがわかる。


なん、か…。


自宅で見る社長は、お店の社長とは全然違う人みたい。


これが、素の社長なのかな…。