「あの、私は自炊派なんです。このキッチン使わせていただいてもいいですか?」


私は社長みたいに、そう頻繁に外食なんてしない。


大体、そんな経済的な余裕もないし。


「あぁ、もちろん。

お前の電子レンジとか調理器具とか、こっちに持って来てもいいぞ」


「ホントですか~?じゃあ早速運びます」


私はリビングから出て、自分の荷物のある部屋へと向かった。


扉を開けると、7畳ほどの広さの部屋の中央に、私の荷物がまとめて置かれていた。


「えーっと、電子レンジ電子レンジ」


私はその荷物の山の中から電子レンジを見つけた。


ちょっと重いけど、腰に力を入れて持ち上げてリビングへと向かった。


長い廊下をゆっくり歩いていると。


「おいっ」


私の正面に、ビックリした顔の社長。


どうしたんだろう?


何を驚いてる?


「お前、そんなもの一人で運んで。俺に言えよ」


「え…?」


そう言って社長は私の持っていた電子レンジを奪い取り、リビングへ持って行ってしまった。


「ちょっ、あの、社長」


社長を追いかけてリビングに行くと、すでに社長はキッチンカウンターの上に電子レンジを置いていた。


「ふぅ」と額の汗を拭う社長。


「あのー社長。私、一人でも運べたんですけど…」


大体、社長はいつも私に重たい段ボールを運ばせるじゃないの。


「お前のそういうところがダメなんだよ」


「は?」


どういう意味?


「イイ女はな、力仕事なんてしねぇの」


さも当たり前のように抜かす社長。


「な、何を今さら!」


「何が今さらなんだよ」


「社長は一週間に何度も、私に炭酸水を運ばせるじゃないですかっ」


あれがどれだけ重いかわかってないのかな。