リビングの奥に見える大きな窓ガラスからの光景に目を奪われる。


「すごい…。街全体が見えますね」


私はトコトコと窓のそばに近づいた。


こんな高い所から、社長は下界の私達を見下ろしているのか。


だから、社長って偉そうなのかもしれない。


「お前の荷物、玄関入って左の部屋に置いてもらったから」


いつの間にか、社長は私の隣に来ていた。


「あ、はい。ありがとうございます」


ビックリした。


コトリとも音がしなかったから。


「お前の荷物ってあれだけ?」


「はい、そうですけど」


え、何か変かな?


「いつでも夜逃げ出来そうな量だな」


うっ、どういう意味だろう。
 

「そ、そういう社長も意外に物が少ないじゃないですか。

って、あれ?」


「ん?どうした?」


私は対面式の広いキッチンへと向かった。


「社長!なんですか、このキッチン」


思わず叫ぶと、社長がコテンと首を傾げた。


「何が?」


「だって、冷蔵庫以外何もないじゃないですかっ」


食器棚もなければ、鍋や調理器具もないし、電子レンジすらない。


ガスコンロの上に、小さなケトルがポツンと置かれているだけ。


「あぁ、俺キッチン使わないから」


あっさり答える社長。


「えっ、食事はどうされてるんですか?」


「朝は食わないし、昼と夜は店でまかない食べるだろ?使う機会がない」


「え…、でもお休みの日は?」


「外で食うから」


あ、なるほどね。外食派か。


「社長、朝ごはん食べないんですか?身体に悪くないです?」


朝ごはんは大事だって、ウチの親はうるさかったけどなー。


「もう慣れてるし、そんな時間あったらギリギリまで寝てたいんだよ」


確かに社長っていつも夜遅くまでお店に残ってるもんね。


私達みたいに交代勤務じゃないし、ほぼ毎日お店に缶詰状態だもんなあ。