とても静かなこの空間に、私は息が詰まりそうになった。


被っていたヘルメットをそっと脱ぐ。


階が上がれば上がるほど、私の心臓もスピードを上げていく。


そして、ついにエレベーターは29階に到着した。


げっ。


扉が開いた途端、目がテンになった。


ちょっ、ここって内廊下なの?


床はカーペットだし、まるでホテルみたい。


私のアパートみたいに、玄関から外が見えないんだ。


「こちらが久遠様のお部屋でございます」


茶色の扉の前で、男性がインターフォンを鳴らす。


『はい』


うっ、社長の声だ。


当たり前だけど。


「水沢様をお連れ致しました」


『はい、今出ます』


しばらくするとガチャンと扉が開いて、中から白いTシャツに黒いパンツを履いた社長が顔を出した。


「秋山さん、お世話になりました」


「いえ、それでは失礼致します」


そう言ってその男性は、エレベーターホールへと引き返して行った。


あの人、秋山って言うんだ。


30代くらいなのかな?


背が高くて、紳士っぽくて素敵だった。


「おい」


社長の低い声に、ドキリと胸が波打つ。


「何突っ立ってんだよ。入れよ」


「あ、はい…」


うぅぅ~、どうしよう。緊張する。


カチコチになる体をなんとか動かし、一歩を踏み出す。


「お、お邪魔します」


私の言葉に、社長がクスリと笑う。


「お邪魔します、じゃないだろ?

ただいま、だろ?」


なに?その笑顔。


ただでさえ私服の社長にドキドキするのに、そんな顔を向けるのはやめていただきたい。


「まぁ、入れよ」


中は白を基調にした空間になっていて、とても明るく感じる。


綺麗な木目のフローリングの廊下を抜けると、広いリビングへと到着した。


「わ、あ……」