こんなところに停めてもいいのだろうか?と戸惑いつつ、とりあえず自転車を停める。


自動扉が開くと、ひんやり冷たい空気に変わり、一気に汗が噴き出した。


「こんにちは」


玄関ホールに響く男性の低い声。


「こんにちは」


あまりに丁寧な挨拶に、私も思わず挨拶をした。


えっ?ここってホテルなの?


どう見てもこの男性、ホテルのフロントの人に見えるんだけど。


「水沢様ですね?」


「へっ、あ…はい」


なんで私を知ってる?


「久遠様から伺っております。本日からご入居でございますね?」


「…はい」


「失礼ですが、あちらに停めておられるのは、水沢様の自転車ですか?」


「あ、はい。そうです」


「自転車置き場がございますので、そちらにご案内致します」


そう言ってその男性は、外へと出て行く。


「こちらです」


白い扉を開けると、中は広い空間になっていて、綺麗に自転車が並べられていた。


「水沢様はこちらにお停めください」


「すごい…。一台一台区画してあるんですね」


ここなら盗難の心配はないよね。


入口も鍵が必要みたいだし。


すごいな。


「こちらからエレベーターホールへ行けますので」


駐輪場の奥に扉があり、そこを開けるとどうやらマンションの中へ入れるらしい。


男性の後に続いて入ると…。


なっ、何?このエレベーターホール。


やたら広いんですけど。


「水沢様は29階になりますので、こちらのエレベーターをお使いください」


うそっ、まじ?


階毎に使うエレベーターが違うの?


もう、何もかもビックリ。


「それではご案内します」


エレベーターの扉が開き、男性と一緒に乗り込む。


ん?29階ってもしかして最上階?


社長ってば、こんなマンションの最上階に住んでたんだー。