暑さが厳しく、少し夏バテ気味になっていた気だるいある日の夜のこと。


社長にいきなり残業を言い渡され、私はスタッフさんが全員帰った後、お店の厨房でひとりボーッと座っていた。


「水沢」


社長の低い声にドキッとして、慌てて立ち上がる。


「もう全員帰ったのか?」


「はい」


「じゃあ、俺の部屋に来い」


社長にそう言われ、私はドキドキしながら社長の後ろに付いて行った。


「ここへ座れ」


私は言われるまま、社長室のソファにゆっくり腰を下ろした。


社長は机を挟んで私の正面に座り、真っ直ぐに私の顔を見ている。


その刺さるような鋭い視線に、なんだか身動きが取れない。


「水沢。どうして俺がお前を呼び出したかわかるか?」


「え…?」


「心当たりはないか?」


「あの、おっしゃってる意味がよくわからないのですが…」


私がそう言うと、社長はふぅと長い息を吐いた。