「キミ、名前は?」


「えっ、私ですか?」


ドキッとして目を見開くと、「そうだよ」と堪えきれない様子でクスッと笑う彼。


あぁ、私ってアホ過ぎる。


今ここに、他に誰がいるって言うのよ。


「水沢、由梨です…」


なぜか小声になってしまう情けない私。


「由梨ちゃんかぁ」


その人はにっこり笑いながら、栗色の髪をやわらかくかき上げた。


やることがいちいち絵になって、なんかずるい…。


「僕はこういう者です」


そう言って彼は私に名刺を差し出した。


「椎名朝日(しいな あさひ)…?」


「うん、朝日でいいよ。みんなそう呼ぶから」


「朝日さん……」


綺麗な響きだなあ。


この人の雰囲気にピッタリかもしれない。


「音楽専門学校の講師?」


「うん、作曲を教えてる」


「すごいっ。曲が作れるんですか?」


「んー、そんなすごいことじゃないよ。

ちょっと理論がわかっていれば、誰にでも作れるよ」


「えー、そうですか?」


作曲って相当難しい気がするんだけどな。


「あとはね、イベントの音楽やゲーム音楽を作ったり、アイドルの卵達に曲を書いたりしてるんだ」


「へぇぇ。

こんな仕事をしてる方には初めてお会いしました。

私、音楽が大好きなんです。

もちろん聴く専門ですけど」


「何を聴くの?」


「なんでも聴きますよ。演歌以外なら」


「洋楽も?」


「はい、もうかなりの音楽漬けです。音楽がないと生きられないってくらい」


「そうなの?じゃあ今度ウチに来る?」


「は?」


「僕の家CDが売るほどあるから、きっと退屈しないと思うよ」