手をつなぎながら、窓の外を見る花音。


そんな花音の横顔を見つめる俺。



ただ、言葉を待っていた。







「私ね。捨てられた子なの」



どこを見ているのか分からない。


だけど、悲しみに溢れるその瞳。



言葉の意味を理解できずにいる俺は、ただ聞いているだけだった。




「私が幼い頃…お父さんとお母さんのケンカがひどくて……。

離婚届けとか用意してたりもした。
私がいやだって言ったも、無駄だった。

悲しかった。そんな簡単に、ふたりの今までの思い出が終わっちゃうなんて。


……そして、私はお母さんに引き取られたんだけど…離婚してすぐ、交通事故で死んじゃった……」




真っすぐに遠くを見つめるその瞳から、一筋の涙が流れた。





「私、なにもできなかった。
ふたりをひきとめるための唯一の存在だったのに。
ふたりの子供だったのに。


ひきとめることもできず、お母さんはいなくなって……。

お父さんには、見捨てられて……。

……私はなんでここにいるんだろう?って。

生きてる意味なんて、あるのかな?って…。

悲しくなった。

……お父さんに、『お前なんかいらない』って言われて、私は声を失ったの。

……そして、母方のおばあちゃんに引き取られた」



俺は、震える手をギュッと握りしめた。


無力な俺にできることなんて、なにもなかった。