有り得ない、有り得ない。
こんなことになるなら、ずっとここから見てるだけにすれば良かったのかな。
欲張らず、密かに想い続ければ良かったのかな。
「私の、バカ……ほんと、バカ…」
ポツリと呟いた言葉は誰にも届かず一人では広すぎる部屋に消えていく。
ーーはずだったのに。
「阿波がバカだったら、世の中はバカで溢れてるな」
呆れたような、でもどこか優しさを含んだ声が聞こえて慌てて顔を上げる。
誰もいないと思ってたのに。
例え誰かいたとしても、君だけは有り得ないと思ってた……。
だからこそ、ここにしたのに。
先生のことが好きなことを知ってる人に会ったら、嘘をつける自信がなかったから。
情けない顔を晒して、心配させるのが目に見えてたからなのに。
「一人で喋ってんじゃねーよ、気味が悪い」
「……っ」
視界前方。
そこには、本棚を背もたれにして立つ千堂くんがいた。