交わらないと思ってた視線が交わって、大好きな先生の声が私を呼んだ。


力強い瞳が真っ直ぐと私へ向けられて、心臓がドクンと甘い音をたてる。


今、その瞳に映る私は、きっと戸惑いに満ちてるんだろう、なんてどこか他人事な考えが頭に浮かぶ。



変に思われてないかな？

大丈夫かな？





「な、何ですか……？」


「そんなにボーッとしてると勉強が頭に入らないぞ？」


「……なんだ、そんなこと」





確実に速度を上げた鼓動がバレないように平然を装って話すけど、少し上擦った声は隠し切れたかな？


だけど、先生の言葉に少しだけ冷静さを取り戻す。


……良かった。

一瞬、先生を見すぎてて不審がられたのかと思ったじゃん。


安心してホッと溜め息をつくと、そんな私を見て今度は先生が溜め息をつく。





「いやいや、阿波。そんなことじゃないだろ？」

「だって数学、嫌いなんですもん」

「……っ！」





好きな人が好きなものを、自分も好きになりたい。



それは当たり前の感情だと思う。

実際、私も最初はそうだったけど。



だけど中学の頃から一番嫌いだった数学は高校生になった今もどれだけ努力したって好きにはなれない。

得意とも無縁の状況。