あの日、卒業式の後私は、約束通り数学準備室に向かった。
『来ないかと思った』
何故か浩也は私の顔を見ると安心したように、そう言ったんだ。
『何で、約束したでしょ?』
『……阿波、卒業おめでとう』
律を好きだと自覚したせいで、何だか真っ直ぐ先生を見れなかった。
『好きです、良ければ俺と付き合ってくださいーー』
少し照れたようにそう言うと、先生は今まで見た笑顔の中で、一番優しく笑ったんだ。
あの告白に対して頷いたことを、後悔なんかしてないよ。
律を好きだったのは、ちゃんと思い出にしたから。
間違って思い出したりしないように、ちゃんと鍵をかけて、大切に閉まってある。
私は、浩也と幸せになるって決めた。
それは今だって揺らいでないし、揺らぐことなんてないと思う。
だってきっとそんなことを出来るのは、律だけだから。
……もう二度と会うことのない、彼だけだから。