「……茜、どうかした?」
後ろからふわりと抱きしめられた後、心配そうな声で名前を呼ばれて、我に返った。
回された腕に触れると、ギュッと力を込められた。
「ううん、何でもない。ただね、高校の頃を思い出してたの」
「……高校、か。色々あったもんな」
「そうだね、先生」
困ったような声に畳み掛けるように、あえて " 先生 " という単語を強調して意地悪を言ってみる。
久しぶりに口にした言葉、だけどあの頃は毎日の様に口にしていたんだと思うと月日の経つ早さを感じる。
大学に進学した私は、高校の卒業式のあの日以来、先生ーーううん、浩也と交際を続けている。
「ったく、相変わらず茜は意地が悪いよな」
「それでも、好きなんでしょ?」
「……言うようになったなコノヤロ〜!」
わしゃわしゃと頭を雑に撫でられて、その手から逃れるように、笑いながら私は彼の腕から抜け出して、ソファーを立った。