「……先生」




泣き止んで少し落ち着いてから、私は数学準備室に向かった。

ドアを開ければ先生はやっぱりいつものように窓辺に立っていて、ぼんやりと窓の外を眺めていた。


私も同じように目を向けてみたけど、視界に図書室が入ってきて、思わず目をそらした。




「阿波はさ、知ってたんだな……」




まるで独り言のように小さな声だった。

だけど私の耳はしっかりとその言葉を拾った。


……何で先生は既にそれを、と思ったけど、さっきの律の言葉を思い出した。


俺の用意周到さって、このことだったんだ。



恐らく私が恋那ちゃんを追いかけて律と先生が二人きりになった時に、話したんだね。

ーーあの作り話を。




「……はい」

「ごめんなぁ……俺、何も知らないで阿波を悪者にしちまった」




そして先生はようやく振り返って、私を見た。

情けない顔で、笑っていた。