「美倉に聞いただろ……?」

「うん、聞いたよ」




本棚に寄りかかるように立っていた律を見つけた。

私の顔を見るなり、すぐに背を向けた。




「……ねえ、律?」

「……んだよ」

「律はさ、それで幸せになる?」




私が提案を呑めば、律は嬉しい?

少しは幸せになれる?

もう苦しめなくてすむの?




「……バカじゃねぇの」




律の声が、震えていた。

今にも泣いてしまうんじゃないか、そう思った。



「俺が提案したのに、何言ってんだよ…っ」




それなのに、強がるんだね。

本音を言うつもりはないんだね。


……彼の背中を、初めて小さいと思った。




「私さ、一目惚れだったんだ」

「……ん」

「一目惚れだったんだよ……」




大人に対する憧れなんかじゃなかった。

本当に、本気で、好きになった。


こんなに誰かを好きで欲しいと思ったのは、初めてだった。