「何か夏休みって、短いのか長いのか分かんないよな」
「うん、確かにね」
「始まる前は楽しみなのに、いざ始まったら大してやることねぇっていう」
「はは、言えてる」
律の話に当たり障りのない返事をしながら、私の脳内は全く別のことが占領していた。
時間をくれ、そう言った先生。
私が出した期限は今日までだけど、先生の中でもう答えは出たのかな?
先生はどっちを選ぶんだろう。
……そして私は、先生にどっちを選んでほしいんだろうか。
下足箱につくと、私の瞳は陽果の姿を捉えた。
一ヶ月以上ぶりに会った彼女は少し髪が伸びていて、何だか大人っぽくなった気がする。
やがて、陽果も私に気が付いて視線が重なる。
だけど、それもほんの一瞬。
すぐに視線はそらされて、靴をはきかえると彼女は足早に、この場を立ち去ろうとした。
「ーー麻野」