‥‥‥‥しまった。
そう思ったのは、思ったことを口した後で、つまり手遅れ。
今度こそ、怒られる。
絶対にキレられる。
「ごごごご、ごめんなさいっっ!!」
先手必勝。
そう思った私は椅子から立ち上がって、ピシッと90度に腰を曲げながら、それはそれはお手本のような美しさで頭を下げた。
「‥‥‥‥くくっ」
次には私の終わりを告げる言葉でも飛び出してくるのかと、頭を下げながら怯えていた私の耳に届いた声は、想像よりずっと明るくて、柔らかくて。
「千堂、くん……?」
「お前、面白すぎだろ。見てて飽きねぇわ」
そう言いながら、手の甲を口元に当て可笑しそうに笑う千堂くん。
「……それって、褒めてる?」
「あ?褒めてるように聞こえんの?めでたい奴だな」
高三の春、夏が少しずつ近付いてくる頃。
口は悪いし、すぐ睨むし、滅多に表情を表に出さないけど、一匹狼くんは案外普通の男子だということが分かりました。