「よし、準備完了」




律はそう言うと、バタンと冷蔵庫の扉を閉めた。



……憂鬱だ。酷く、憂鬱。

近くに律しかいなくなると、私は体中の全スイッチを切ったかのように、何も考えたくなくなる。


阿波 茜はどんな人物なのか、自分でも分からなくなるんだ。




「ねえ、人間って怖いね」




だから、こうやって自分でもよく分からずパッと思ったことをそのまま言葉にしてしまう。

人間というよりも、私が怖い。


自分なのに、自分が誰よりも分からなくて、怖くて仕方がない。





「……確かに、そうかもな」





一瞬、怪訝そうな表情を浮かべたものも、次には同意して私に笑ってみせた。


それらの言動からは彼が本当にそう思っているのかは、分からない。


律は、よく分からない人だ。



そして、不思議に思う私を気にもとめず、制服からスマホを取り出すと慣れた手付きで操作して私に画面を向けた。





「なぁ、コレ。茜も欲しいか?」