「茜、どこ行くのっ!?」
「ちょっとーートイレッ!」
小学生かと突っ込みたくなるほど低レベルな自らの嘘に思わず顔が引きつった。
でも、飛び出して視界に先生の姿を捉えた瞬間、表情が引き締まる。
「……先生!」
「おぉ、阿波。どうした?」
振り返る瞬間が好きだったはずなのに、今はむしろ立ち止まることすらして欲しくなった。
……私から逃げて欲しかった。
だって私、ふわりと笑ってみた先生を見て思ったんだ。
あぁ、私。
やっぱりもう、先生にとってただの生徒でいたくないって。
どんな形であっても " 特別 " でいたいって。
「ちょっと、良いですか?」
そっと先生に近付く。
少しずつ騒がしくなる廊下で私の回りだけ音が消えたみたいに静かになっていく気がする。
聞こえるのは自分の心音だけ。
「……生徒と付き合ってるって、学校にバレたら大変だよね?」
例えその " 特別 " が最も先生を傷付ける存在であっても、構わないって。