俺は拍子抜けして間抜け面のまま顔をあげた。目の前の安野は少し首を傾げていて、俺は益々意味が分からなくなる。どうしてって、そう小さくつぶやく俺をみて訳が分からないといった顔をされた。俺のほうが訳わかんねぇんだけど。そう思った俺の気持ちを察したのか、安野は言う。

「私は感情がほとんどと言っていいほど無いんです、昨日はちょっとした故障なんです」

「何言って、」

「むしろ、謝るのは私のほう…頬を叩いてしまってごめんなさい」

ごめんなさい、と言う割には凛としたあの薄い茶色の眼でしっかりこっちを見ていた。なに言ってんだこいつ、訳判んねえ。

「昨日は俺が悪いんだって」

「いえ」

「お前を傷つけたんだぞ!?」

悪いのは俺なのに、少し荒い口調になってしまっている自分が馬鹿らしかった。それでいても、安野は無表情のまま、もう一度、いえ、と言った。

「私のこの性格に興味を持つのは自然であると思いますから、水野くんが謝ることではないです」


そう言った安野の言葉が、妙に頭のなかに響いた。




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