いつもより早く学校にきて、教室のドアを開ける。安野はもう学校について、いつもどおり窓際で頬杖をついて窓の外を見ていた。前の席に座っても気付かなくて、何だか空しくなって下を向いた。履き古した上靴が眼に入る。俺は何してんだっけ、ああそう、こいつに謝りにきたんだ。だけど安野はこっちをちっともみないから、やっぱ怒ってるんだって思うと俺も辛くなって。こんな感覚久しぶりだ。まるで親と喧嘩した一晩後みたいな、罰の悪いっていうのか、そんな感じ。あと寂しいってのもあるかも。

俺はいきなりカーテンを閉めた。

「!」
「悪ィ、いきなり」
「水野、くんですか」
「話があって」

一瞬驚いたように表情を歪ませた。安野は少し躊躇していたようだった。昨日のことがひっかかってるのか。やっぱり「大部分」だけであって、感情の全てが失われたわけじゃないのだ。こいつだって人形じゃない。人形としてはもったいない気がした。そんなことを考えながら、戸惑っていた安野の手首を掴んで廊下へと歩く。数人の好機の視線が刺さったのが判ったけど気にしない。今はこいつと話したい。ちゃんと謝りたい。

「水野くん」
「ちょっと待って・・・こっち」

なるべく人気の無いところに来て、安野の手を離した。いきなりごめん、と言うと、安野は視線を合わせずにいえ、それだけ、また淡々と返した。昨日はどうってことなかったのに、今日は胸が刺されているみたいに痛い。ごめんごめんごめん、何度言っても飽き足らないだろう言葉がぐるぐる胸の中で交差する。安野は困ったようにこっちをみあげた。



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