赤い紅い夕日が差し込む教室は赤いセロハン越しに見たような色をしていた。がたん、音を鳴らして安野の前の席にすわった。椅子が低い。安野は俺に顔を向けた。それに答えるようにして俺は口を開く。

「お前さ、独りで寂しくねぇの」
「あなたは私のことを知らないのですか」
「知ってる、感情の大部分が欠落だろ」

なら、と言葉を続けようとした安野に顔を近づける。そのまま瞳をのぞき込んだ。透き通った薄茶色をしていて、マスカラをつけていない細長い睫が動いた。もう一度まばたき。驚いた様子はこれといってない。表情もなんら変わらず、涼しそうな顔をしていた。今は五月の割に暑いのに、どうしてこんな顔ができるんだか。

何も言わない俺を疑問に思ったのか、さっきの続きを言いたかったのか、安野は口を開いた。

「なら何故貴方は私に話しかけるんですか、水野雅治くん」



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