『あんたなんかいらない……っ!こんな、薄っぺらい音しか出せなくなるってわかっていたら、始めから愛さなかったのに!あんたも、あの人も……っ!』



耳から入ってくる雪岡の音色と、頭の中に流れるあの人の音。

そして、それに重なった、甲高い涙交じりの叫び声────。


深く深く、心の奥に沈み込んだまま。

消え去る気配など微塵もない、その黒い記憶。


最近ようやく思い出す回数も減ってきて、長い時間を掛けて封印してきた記憶。


それなのに。
雪岡の音は、いとも簡単にその封を解いてしまった。



────純真無垢。


そんな言葉がぴったりの雪岡を見ると、余計にかつてのあの人を思い出すから辛い。


今の雪岡の音とそっくりな音色を奏でていた、幸せだった頃のあの人を思い出すから、痛い。



……雪岡は何も悪くない。


俺に冷たくされて戸惑うのは当然だ。