呼び出された場所に向かっているときは、俺はもっと冷静だった。
会う覚悟もできていた。
なのに。
実際に近くで雪岡を見ると、いつか聴いた彼女の奏でるピアノの音が不意に脳裏によみがえってきて、頭の中を大音量で流れだした。
────放課後の練習室。
微かに開いたドアの隙間からきこえたのは、醜いものを許さないような、強く美しいピアノの音。
その音を聴いた時、俺の中に沸き起こったのはその綺麗な音色に対する感動ではなく、強い痛みと嫌悪だった。
耳から入ってくる雪岡の奏でる音に重なる、頭の中で流れだした二度と聴きたくない音。
聴きたくも思い出したくもないのに、心に巣食ったまま離れてくれない、透き通ったあの音。
……俺を苦しませるのは決して雪岡の音じゃない。
だけど、あまりに似すぎていた。
俺に痛みを思い出させるほどに、そっくりだった。