私が今もまだピアノを続けられているのは、ピアノを好きでいられるのは、あのときの水無月くんの言葉に励まされたから。

そう思ったら、彼の存在を意識せずにはいられなかった。


科が違うから、滅多に授業が一緒になることはないけれど、たまに食堂や廊下ですれ違う水無月くんを、気付けば目で追っていた。


そのたびに、ドキドキして。

いつも楽しそうに友達とじゃれている、彼の笑顔が好きだと思った。


彼を見かけるたびにどんどん大きくなる胸の音に、私は水無月くんに恋をしたんだって、気付いたんだ───。





「……えーっと、うん。何の用?」


真正面に立つ水無月くんが、いつもは見せない怪訝そうな顔で私を見てそう言った。



……なんだかいつもと雰囲気が違う気がするのは気のせいだろうか。



「えと……」


「ていうか、君と話したこととか、あったっけ?
……あ、もしあったならごめん。でも、悪いけど覚えてない」


そう言われて、ズキン、と胸が痛んだ。