ぽつりと思わず呟くと同時に、目頭がキュッと熱くなった。

私の精一杯のピアノ。

そんな感想がもらえるとは思っていなかったから、もしかして、と期待してしまう。

ねぇ、水無月くん。

もしかして。


「……聴いてて、辛く、なかった……?」


微かな声で、なんとかそう訊ねると、水無月くんはハッとしたようだった。

まるで、言われて初めてそのことに気が付いたような、そんな表情。


「……辛くなんかなかったよ」


「……っ」


水無月くんの優しい声に、ぶわっと涙が溢れた。

どんなに冷たくされて泣きたくなっても我慢できた涙が、今は全然堪えることができなくて、あとからあとから溢れだしてくる。


「過去を思い出すことも、心が痛くなることもなかった。

……雪岡、前言ったよな?ピアノを、受け入れて欲しいって」


水無月くんの言葉になんとか頷く。

涙でぼやけて水無月くんの表情が上手く瞳に映らないのに、どうしてかすごく優しい表情をしてるって分かった。


「……受け入れられるよ、雪岡のピアノ。
もっと早く雪岡のピアノにまっすぐ向き合うべきだった、って今になっては思うくらい、すごく綺麗な音だった」


そこで一度、水無月くんは言葉を切って。

指先で、私の頬を濡らす涙をぬぐってくれた。